“『放射能は怖くない』という雰囲気を全国につくりだす”
現在、「ガレキ処理はみんなで分かち合おう」という「国民運動」が、マスコミを総動員して行われている。一体その反動的狙いは何か。それを考える上で、問題の核心をついた一文を紹介する。
5月11日にNAZENナガサキが、長崎市が被災地のガレキ処理を受け入れようとしていることに抗議した。被爆者の城台美弥子さんが朗読した申し入れ書がそれだ。
「そもそも被災地はガレキの全国受け入れなど望んでいません。ガレキの中には、被災した人たちの遺品も入っています。その意味でも被災地に埋めるべきです。長崎が原爆で被災したときも、長崎で埋めており全国にガレキは配布しませんでした」「長崎は被爆地です。この長崎が、放射能汚染されたガレキ処分を受け入れるということは、特別な意味を持ちます。『被ばく地・長崎も放射能汚染されたガレキ処分を受け入れたのだから、全国の自治体が受け入れるべき』という流れを促進するでしょう。『被災地救援』の『国民運動』の展開のもとに、『放射能は怖くない』という雰囲気を全国につくりだし、被ばくや被ばく労働も当然だということになっていきます。それは原発や核開発に反対する人たちは『非国民』だという空気を生み出し、原発の再稼動への流れに掉さすものとなっていくでしょう。……被ばく地・長崎こそ受け入れてはならないのです」
この「申しいれ書」が喝破しているように、広域ガレキ処理は、原発への怒り、福島をはじめ東日本全体を放射性物質で大量に汚染したことに対する労働者人民怒りと反原発の闘いを圧殺し、原発再稼働と原発推進の道を掃き清めるのが狙いということだ。
拡散防止・集中管理が鉄則だ
放射性物質で汚染されたものは、拡散を防止し集中管理することが絶対的な鉄則だ。その観点から、3.11大震災前は、国際的な基準に基づき、放射性セシウム濃度が1kgあたり100ベクレルを超える場合は、特別な管理下に置かれ、封じ込めてきた。
しかし東日本大震災後、当初、福島県内限定の基準として出された「8000ベクレル/㌔グラム以下であれば埋立処分できる」(従来の基準の80倍)を、その十分な説明も根拠の明示もないまま、昨年6月に広域処理の基準にも転用した。
放射能汚染物を、一般ゴミと同じように焼却してはならない。放射性物質を大気中・土壌・海洋に拡散させてしまうからだ。ドイツやフランスでは、放射性物質で汚染された物を燃やす焼却炉は、原子力発電所並に扱われている。また焼却灰や飛灰は核廃棄物と同じ扱いだ。鉱山の跡地など、セシウム等が水に溶出して外部にでないように、地下水と接触しないように、注意深く保管されている。
「放射能安全神話」
そもそも、通常のごみ焼却施設や埋め立て処分場である廃棄物処理施設は、放射性物質を処理することを想定して造られていない。焼却施設のバグフィルターは、煤塵除去のため設置されたものであり、埋め立て処分場にある、雨が降ったときの浸出水の処理設備も放射性物質の除去処理はできない。このまま汚染ガレキの全国化・広域処理が進めば、日本列島を放射能汚染列島にすることになる。 「ガレキ広域処理」を推進しているのは、「原子力村」だ。「原発安全神話」が崩壊した今、今度は『放射能は怖くない』と「放射能安全神話」を創り出し、原発再稼働や海外輸出するためにも、放射能に対する一切の不安や疑問の声さえ根絶しようしている。その最大の武器が、「ガレキ広域処理」なのだ。
「ガレキは金の成る木」
さらに「ガレキ広域処理」は、日本版「ショック・ドクトリン」そのものだ。 いま福島では、除染=安全キャンペーンと一体の「復興特区」攻撃で大手ゼネコンが群がっている。そして震災ガレキ処理には1兆円を上回る「復興予算」がつき、地元の企業ではなく大手ゼネコンが全て受注した。さらには「ガレキ広域処理」では、JR貨物や運輸関連資本がガレキ400万㌧の巨大な運搬費用を、さらには自治体は、「1㌧6万5千円」という高額な処理費用や「交付金」がはいることで、「ガレキは金の成る木」と奪い合いが繰り広げられているのだ。
JR総連“「広域処理」で収入確保を”
政府や資本家連中の手先となり「広域処理」を積極推進しているのが連合幹部どもだ。連合の各県連合会は今年3月、それぞれの知事あてに「ガレキの受け入れについて……原子力事故による残留放射線の影響などを理由に消極的な対応が目立つ。ガレキの処理は喫緊かつ最重要な課題」という「要請書」を一斉に提出した。
また、JR総連・日貨労は、「ガレキ輸送に対して、社内でプロジェクトを立ち上げ収入確保に繋(つな)げること」(「交渉速報」、2月23日付)を会社に要求している。JR貨物会社の意をくみ、経営危機をのりきろうという魂胆だ。JR総連の「反原発」がいかに偽物か、これの一点で暴かれている。
「このままでは我々被曝します。人殺しですか?」
汚染ガレキの問題は、住民の安全、そして何よりも労働者に被曝労働を強制するものだ。すでに、宮城県女川町の「汚染ガレキ」を焼却している東京都の清掃工場では、汚染焼却灰運搬の作業員が被曝していたことが明らかになっている。さらに、被ばくリスクの高い焼却炉の保守点検は、その多くが非正規労働者が行っている。
3月26日に行われた「放射性廃棄物全国拡散阻止!政府交渉」で、ある清掃労働者が怒りの告発を行った。
「バグフィルターって馬の念仏みたいに言ってますが、もう現段階で(放射能)が出てるんですよ。何とかしてくださいよ! アルバイトで清掃工場で働いてる者なんですけども、このままでは我々被曝しますよ。あなた方は人殺しですか?答えてくださいよ!」
労働運動の正面課題
「ガレキ広域処理」との闘いは労働運動の正面課題だ。被曝労働から労働者を守り、地域住民を守るための運動は、労働組合の課題である。動労水戸の闘いが示したように、この闘いは全労働者の魂をとらえ、地域住民の中に労働組合への大きな信頼を呼び起こすことは間違いない。そして、職場における外注化攻撃との闘いへの地域での大きな共感をも作り出すことになることは間違いない。新自由主義と対決する労働運動そのものなのだ。