2014年5月24日土曜日
命より金儲け エキナカ保育所
JR東日本は2001年の「ニューフロンティア21」以来、鉄道会社としてのあり方を転換させてきた。「株主価値重視経営」の名のもとに、駅ナカビジネスやスイカなど金融事業を収益の中心に位置づける一方、鉄道事業は第3番目に位置付けられてきた。その結果、金儲けにならない鉄道の保守部門は外注化を軸に嵐のような合理化で鉄道会社の最大の使命である安全輸送は崩壊し、JR体制崩壊へと向かっている。 今回は、JR東日本が株主価値重視経営の第一の柱としてきた駅ナカビジネス一つである「駅ナカ保育所」の問題点を提起する。
JR東日本は、「子育て支援事業」と称して、首都圏を中心とした沿線の駅構内や駅ビルやガード下に保育園や学童保育施設をつくっている。その数はすでに79カ所だ。1996年1ヵ所目の「駅型保育園」を国分寺に開設し、2004年には、埼京線沿線を「子育て応援路線」のモデルに、2011年には埼玉県内沿線のほぼ全駅に開設し、現在では首都圏に70カ所も設置され、100カ所まで開設すると発表している。
「稼げるビジネス」
ここ数年、JRだけではなく大都市圏の鉄道会社のほとんどが駅ナカ保育事業に本格参入している。
電車通勤が多い大都市圏では、通勤の行き帰りに子どもを預ける場所として駅ほど便利なところはない。しかも保育施設は、「子育て支援」の名の下に規制緩和がどんどん進み、「待機児童解消」という大義名分の下、国や東京都などの自治体の政策の後押しを受けられる「儲けるビジネス」になっているからだ。
駅やガード下などの空きスペースを持つ鉄道各社が、「今こそビジネスチャンスだ」と駅ナカ保育事業に全面的に乗り出しているのだ。
規制緩和で急増する「エキナカ保育所」
かつて認可保育所の設置者は、市町村か社会福祉法人に限られていたが、2000年3月に株式会社やNPOにも開放され、定員や資産の条件も緩められた。その後、市町村の公立保育園の民間委託が進み、政府は民間企業が設置した保育施設にも、公的補助を出す方針に転換した。さらに2012年4月には認可条件を市町村が自由に決めてよいことになった。受け入れる子どもの定員や職員配置、最低面積の基準を引き下げたり、園庭基準を廃止した市町村なら、ビル内の手狭なスペースで小規模保育所を開設するといったケースでも、認可が下りる。そして横浜市は、認可保育所の4分の1を株式会社に任せることで「待機児童ゼロ」を達成した。そして駅ナカ保育所も「○○市認可」のお墨付きが取りやすくなったわけだ。
大地震で、駅舎倒壊の巻き添えに
そこで「エキナカ保育」の最大の問題になるのは、安全問題だ。建築基準法では、保育所は「特殊建築物(児童福祉施設等)」に該当する。耐火建築物であるだけでなく、採光も、換気も、内装材の不燃性も建築基準法で定められ、細かい基準をクリアしなければならない。一方、鉄道駅は建築基準法の対象外だ。つまり基準自体が存在せず、駅舎が駅ビルになっている場合に限って、商業ビルと同じ扱いになる。
さらに消防法では保育所は「特定防火対象物」に該当し、設置が厳しく定められている。しかし駅舎は「非特定防火対象物」で、特定防火対象物よりも防火設備の設置規定が緩くなっている。極端な話をすれば、火災や地震が起きたとき、基準が厳しい保育所部分が無事に残っても、基準が緩い駅舎部分が大きな被害を受け、駅ナカ保育所の出入口が駅に面した1カ所しかないと、幼児も保育士は避難できなくなることもありえる。
その「駅舎崩壊」が現実に起きたのが1995年の阪神大震災である。当時はまだ駅ナカ保育所はなかったが、もし今、同じ規模の都市直下型地震が首都圏や関西圏を襲ったら、駅ナカ保育所にいる幼児たちはどうなるだろう。2003年、JR西日本の駅ナカ保育所「JRキッズルーム」第1号が誕生したJR六甲道駅は、阪神大震災の朝、真新しい駅舎が轟音とともに崩壊したのだ。
以上、「エキナカ保育」の問題点について明らかにしてきたが、 そもそも、大都市圏の駅の多くは毎日数万、数十万の不特定多数の人々が行きかう場所であり、犯罪多発地域であり、そもそも騒音や振動などで人間が住むところではない。そこに子育ての施設であるべき保育所をつくることが果たして許されるのか。
安全よりコスト優先、子どもの命より金儲けのJR体制を打倒しなければならない。
【動労千葉を支援する会 房州鉄道研究会から転載】