2022年6月11日土曜日

日刊動労千葉 第9127号

分割・民営化の破たん
ローカル線「大虐殺」①

 

1 はじめに

ローカル線「大虐殺」

「ローカル鉄道『一挙廃線』が間近に」「ローカル線『大虐殺』の流れ」(『選択』/5月号)、「北海道、四国の2社にとって、地方路線の赤字は現状の経営体制下では解消不能であり、35年前の分割時に遡った議論が不可避の問題」(『日経新聞』/22年5月23日)。

国交省に「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティーの刷新に関する検討会」という組織が設置され、日本の鉄道にとって、国鉄分割・民営化以来の大転換となるであろう重大な検討が進められている。

第1回検討会が開かれたのは2月14日。検討と言ってもあらかじめ結論ありきのもので、来年度予算の概算要求に間に合せるために7月には「結論」が出される。「結論」は、地方ローカル線の存廃を話し合うJR(鉄道会社)と自治体の協議会を、国が介入して設置するルールを作って法制化し、半ば強制的に大リストラ・廃線化するというものだ。

“鉄道崩壊”

国交省は「JR旅客6社が運行する線区の57%が廃線化の基準(輸送密度が4千人未満)を下回っている」と危機をあおり、実際は2千人未満の線区を廃線化しようとしている。それでも全線区の実に39%に及ぶ。まさに「ローカル線大虐殺」計画だ。

国交省が検討を始めた途端、JR北海道、四国、九州に続き、JR西日本がチャンスとばかりに「バス転換を含めて見直しを進める線区」17路線・30区間の収支を公表した。西日本が運行する線区の28%にあたる。JR東日本も廃止対象線区を発表しようとしているが、それは26路線・51区間、全体の35%に及ぶ。

“鉄道崩壊”―それが民営化の行き着いた現実だった。国交省やJRはマスコミなども総動員し、“人口減少やコロナ禍による仕方のない現実”“バス等に転換して利便性を高めるのが最善の道”という方向にすべてを流し込もうとしている。だがそれは“国鉄改革”の失敗、新自由主義の破たん・崩壊を認めないための虚言に他ならない。

2 国交省検討会で何が?

出口は「公有民営化」かバス転換

国交省の検討会は冒頭の設置の趣旨説明から露骨に“結論ありき”で進められた。第1回会議の資料に初めから、「入口論」は「危機認識を共有すること」で、「出口論」は「公有民営化(上下分離)、モード転換(バスや軽便鉄道(LRT)への転換)」と明記されている。「公有民営化かバス転換が出口」とはじめから具体的に決めてしまっているのだ。

注目すべきは「公有民営化」という言葉を使っていることだ。地方鉄道は沿線自治体が鉄道設備を保有しなければ成り立たないというのだ。地方鉄道と言うが、現在のJR線の約6割にあたる路線を指している。

それは分割・民営化政策が大失敗に終わったということに他ならない。別な箇所でも「各地のローカル鉄道は危機的状況」「危機認識を共有して反転攻勢」と書かれている。この中にも民営化は大失敗だったという本音が滲んでいる。それを総括するのがまず先なはずだ。

失敗の責任を地方自治体に転嫁

国交省検討会の最も卑劣な部分はこんな「危機的状況」の中で、すべてを地方自治体に押しつけようとしていることだ。どこの自治体も財政的には青息吐息だ。「鉄道を残してほしいなら自治体が保有しろ」と言われて負担できる自治体などほぼ無いと言っていい。「公有民営」を言うなら、民営化のために巨額の税金を投入してきた経緯からしても国有に戻すのがスジだ。要するに国交省の検討会は“廃線やむなし”に追い込んでいくための仕掛けに他ならない。

民営化された国鉄が上下分離―公有民営化方式で「再国有化」されていたイギリスでは、20年3月に上下分離方式も凍結。半年間議論を重ね、従来の制度の廃止を決定している。翌21年5月には制度全般に幅広い権限をもつ公的機関を23年に新設することを政府が発表している。

公共交通網を維持するための政府のサポート強化は、世界の趨勢になっているという。それに比して、国交省が強行しようとしていることは、あまりにも無責任で破滅的なものだ。

国とJRがグルになって・・・・

さらに、国交省の検討会は、やはり議論の前から「解決の方向性」として、鉄道事業者の責任、地方公共団体の責任、国の責任を決めている。

鉄道事業者(JR)の責任は「改善方策を沿線地域に積極的・具体的に提案していくこと」、地方公共団体(県市町村)は「刷新に取り組むことは地域の責任との意識を持って計画的に取り組みを進めること」、国は「手順、仕組みを整理して強力に促すこと」だというのである。

JRは「積極的に提案」すればいい。どうするか「責任」をもって判断するのは地方自治体だ。国はそれを「強力に促進」する。すべてを「あんたの責任だ」と地方に押しつける。明らかに国とJRがグルになってやっていることだ。

資料には「何よりも利用者の視点に立ち」という文言が枕詞のように山ほど出てくる。だが中身は“強制廃線化計画”に他ならない。

前のめりで廃線化に突進

“アメ”として、バス等への転換を容認した自治体には補助金を出すことが検討されている。来年度中に法改正し2年後には新制度がスタート、ローカル線「大虐殺」を始めるというのだ。しかし事態はもっと早いかもしれない。

JR北、西をはじめJR各社は、すでに地方ローカル線廃止をバタバタと進めてしまっている。7月に報告がとりまとめられれば廃線化に向けた動きが一斉に動きだす可能性がある。

そのやり方はまさに“国交省検討委員会方式”だ。豪雨災害等で鉄道が流れてしまった場合などに典型的に示されているが、JRは復旧の手をつけずに何年でも放置し、「バスでもいい」「鉄道設備は自分たちが持つから走らせてくれ」と地元が音を上げするまで待つというやり方だ。

「今のJR各社幹部は、国鉄経験のない平成入社組で…『なんとしても鉄路を守ろう』と歯をくいしばって踏ん張った経験がない。だから…不採算部門は切り捨て、不動産や商業施設で儲ければいいじゃないかという発想になる」「脱炭素社会における鉄道はどうあるべきか、といった大構想なしにローカル線を切り捨てようとしているのが、今年、鉄道開業百五十を迎えた日本の現状だ」(『選択』5月号)。(②に続く)