分割・民営化の破たん
ローカル線「大虐殺」⑤
(④から続く)
5 国家のスクラップ&ビルド
「デジタル田園都市国家構想」
なぜ、こんな崖から転げ落ちていくような政策に踏みだしたのか? 何を意味するのか? この攻撃の本質は何なのか?
国交省検討会第1回会合の資料では、検討会が打ち出す方針が「『デジタル田園都市国家構想』の基盤を再構築」するものだと位置づけられている。
「デジタル田園都市国家構想」とは、内閣官房に「実現会議」が設置された諮問委員会で、議長は岸田が務める。「地方創生の総合戦略を策定する」ことを目的に掲げ、名称には「デジタル」「田園」「都市」「国家」といくつもの単語を連ねている。
だが、実現会議中心人物の竹中平蔵が「国家改造計画」だと言うように、力点は明らかに「国家構想」に置かれている。かつて中曽根が、臨調行革・国鉄分割・民営化攻撃を「日本が21世紀に生き残るための国家改造計画」と称したことになぞらえている。
かつてはバラ色の未来を「民営化」で描き、今は「デジタル」で描こうとしている。しかし、従来の国家・社会のあり方を反動的に転覆するものだ。日本はウクライナ戦争、台湾有事を理由に「戦争のできる国」へ急速に変貌しようとしている。この「国家構想」はそれと表裏一体の関係にある。
特徴は、新自由主義が生み出した社会の深刻な崩壊を開き直り、外科手術でもするかのようにバッサリ切り捨てようとしていることにある。
例えば、鉄道について、「エリア一括して複数年にわたり(バス等に)運行委託する場合」は「長期安定的な支援を行う」という。“丸ごと廃線化しろ”ということだ。かつてJR東海名誉会長であった葛西は「地方圏に必要なのは終末期医療だ」と言ったが、それが実行に移されようとしている。
その一方、「リニア中央新幹線の早期整備の促進」が謳われる。つまり、極端化された「選択と集中」の強制だ。
それと同じ論理で、社会の全分野で、「付加価値」を生まぬようなもの・地方は全部淘汰してしまおうというのがこの計画だ。
子供たちが学校に通えなくなろうが、医療にアクセスできなくなろうが、郵便や物流が途絶えようが、子育てが困難になろうが仕方がないというのだ。その代替手段として提示されるのは「遠隔教育」「遠隔医療」「ドローン物流」「母子オンライン相談」…。それが「魅力ある社会」として描かれる。
そうした社会の「基盤を再構築」するのが、「デジタル田園都市国家構想」や国交省検討会の目指すものだというのだ。
しかし実際には、うち棄てられた荒涼たる現実、日本全土の限界集落化をもたらすものに他ならない。今年、団塊の世代が後期高齢者となる。25年には不足する介護労働者数が約40万人、26年には認知症患者が8百万人、40年頃には孤独死が年間20万人に及ぶであろうと言われているのだ。
現代版国家改造攻撃
岸田政権が進めようとしているのは“国家のスクラップ&ビルド”だ。それはやはり分割・民営化時に主張されたことだった。
最も強く主張したのは中曽根のブレーンであり、第二臨調基本委員の瀬島龍三だった。「国家目標、国家戦略遂行のために、スクラップするもの、ビルドするものは何か。すべての老人に年金を与えるとか、医療保証をするとかはやめるべきだ。外交、国際協力、安全保証の問題はビルドだ」。「行き過ぎた」雇用や権利の保護はスクラップ、教育への国家の関与はビルド等と位置づけられ、闘いによってかちとられてきた成果がことごとく覆されていった。
攻撃は分・民の原点に回帰したが単なる回帰ではない。新自由主義大崩壊情勢、万策尽きた日本資本主義の危機、ウクライナ―対中国侵略戦争情勢下での原点回帰だ。
国交省検討会路線は、岸田政権が突き進む歴史的大軍拡・改憲断行攻撃と表裏一体をなしている。出口なき危機から、競争原理の徹底といったレベルをこえ、軍事予算確保を一切に優先する戦時型財政、戦時型国家への転換に踏み出したことこそが、一連の攻撃の本質だと見なければならない。
“公共交通も教育も医療も地域丸ごと切り捨ててしまえ。それより防衛費10兆円の確保こそが国益だ”というのだ。
冒頭にも述べたように国交省検討会では、国と地方との関係も、地方自治体は国の方針に「自らの責任を自覚して」言われるままに従う関係にしようとしている。そこにはローカル線問題にとどまらず、地方自治・戦後民主主義的なものを最後的に解体しようとする意志が貫かれている。
国家の運営を国債という名の借金に頼り、世界最大の借金国となった日本経済の大崩壊が迫っている。国内総生産に対する借金比率は220%で敗戦時をこえるひどさだ。物価騰貴に対しても打つ手がない。
(⑥に続く)