2012年2月7日火曜日

「日の丸・君が代」最高裁判決に対する声明

以下に、根津・河原井停職処分取消訴訟弁護団、および、河原井さん根津さんらの「君が代」解雇をさせない会の声明を掲載しします。


声 明

根津・河原井停職処分取消訴訟弁護団
河原井さん根津さんらの「君が代」解雇をさせない会
2012年1月31日

 1月16日、最高裁判所第一小法廷は、一連の日の丸・君が代裁判について3件の判決を言い渡し、1名の減給処分と河原井純子さんの停職1ヶ月の処分は裁量権濫用にあたるとして取り消しましたが、戒告処分と根津公子さんの停職3ヶ月の処分は違法ではないとして上告を棄却しました。私たちは、長年にわたって同じ思いでたたかってきた根津さんと河原井さんを分断し、同じ思いをこめてした不起立について、停職1ヶ月の処分は取り消し、それより重い停職3ヶ月の処分は違法ではないとする矛盾した判決を徹底的に弾劾するとともに、現在、東京地裁でたたかわれている根津さん河原井さんの停職3ヶ月・6ヶ月の処分取り消しを求める3件の裁判で、必ずや処分取り消しを勝ち取ることを誓います。
 判決は、「戒告を超えてより重い…処分…については、慎重な考慮が必要」と判断しました。しかし、「過去の…処分歴や不起立前後の行為における態度」が「秩序を害する程度の相応に大きいものである場合」には停職処分妥当という基準をつくり、それに根津さんを当てはめ、根津さんが過去に受けた処分の行為は「積極的な妨害」であり、「秩序を害する」ものであるから、停職3ヶ月の処分は妥当だとしたことは、極めて不当であると考えます。
 そもそも、君が代斉唱時に起立を求める職務命令に違反したことを理由に、累積加重処分をすることは、教員の真摯な信念に基づく行為について、その思想良心の変更を強要するものであり、不起立に対しては、戒告、減給、停職の如何を問わずいかなる処分も許されないと考えます。
 ことに、根津さんの処分量定(停職3ヶ月)は、過去の処分に加え不起立についての累積加重処分をしたものです。すなわち、河原井さんは3回の不起立で停職1ヶ月とされたことに比べて、根津さんは過去の処分歴があることを理由に減給6ヶ月から出発して3回の不起立で停職3ヶ月とされたものであり、いっそうその不当性が著しいものです。
 判決が「積極的な妨害」と断定した根津さんの行為は、どれも教育行政が学校に「日の丸・君が代」を強制し不当介入をする中で、子どもたちが事実を知り、それをもとに自分の頭で考える子どもに育つことを願ってした教育活動でした。1994年の卒業式の朝、根津さんが「日の丸」を降ろしたのは、「日の丸は揚げない」と決定した職員会議の決定を破り、「校長先生揚げないで」という生徒たちの声を無視して「日の丸」を掲揚した校長の行為に対して納得できなかった生徒たちの、「根津先生降ろして」の声に応えた行為でした。その声は、生徒の総意と言っていいものでした。また、判決が「校長を批判した」とする、生徒に配付した文書(1995年、1999年)とは、何も考えずに上からの指示に従うのではなく、事実をもとにして自分の頭で考えることの大切さを提起する学級だよりであり、教材プリントでした。
 さらに再発防止研修時に「強制反対」と書いたゼッケンを着用したことも、判決では「積極的な妨害」だとされていますが、思想信条の転向を迫るこの研修に反対し発言するのは、教育行政の不当な支配の是正を求める行為でした。この再発防止研修は、東京地裁の執行停止の申立に対する決定においても、違憲違法のおそれがあると指摘されていたものであり、これに抗議することは、非難されるべきことではありません。

 最高裁に問われていたのは、「君が代」斉唱時の不起立行為に対する停職処分の是非、並びにそれに対する累積加重処分の是非でした。しかし、根津さんの過去の行為を持ち出し、それを「積極的な妨害」=「秩序を害する」としたことは、司法が「積極的な妨害」=「秩序を害する」と恣意的に判断すれば、いかなる不起立処分も妥当とされる抜け道を用意したのと同じです。
 判決の翌日には大阪維新の会は「同一の職務命令違反3回で原則免職」の案を「1回で戒告、2回で減給、3回で停職」と修正したものの、2回の不起立処分の次に「指導研修」を入れ、職務命令に従うことを「宣誓」しなければ「現場に戻さない」「辞めてもらう」と発言しました。不起立のみでの免職案は撤回されましたが、「指導研修」で「宣誓」しない者は「学校の規律や秩序」を破壊する者と見なして、教員の適格性に欠けるとして分限免職に持ち込まれるおそれがあります。このような条例は、本件最高裁判決にも明らかに抵触するものであると考えられますが、判決が、思想良心の自由並びに教育の自由の本質をふまえて、累積加重は許されないと明示しなかったために、このような条例案が提案される余地を残してしまったといえます。本件最高裁判決は極めて恣意的かつ政治的な判決であり、自らが憲法「秩序を害する」ことに道を開いているといえます。

 国民の間で今なお意見や評価の分かれる論争的主題である「日の丸・君が代」を、その意味するところを隠し、命令と処分という環境の中で国家が、その「尊重」を子どもたちに体で覚えさせようとするとき、こどもの側に立ち続ける教師の責任を強く自覚します。とりわけ、東日本大震災での東京電力原子力発電所事故がもたらした多大な犠牲を通して「何事に対しても黙って従うのではなく自分で考え判断する(道を選ぶ)力の大切さ」を多くの人が強く思う今、教員が子どもたちに「日の丸・君が代」の意味や歴史を教え、「日の丸・君が代」の強制に反対して斉唱時に起立しないことは、子どもたちの知る権利を保障するまっとうな教育活動であることを私たちは確信を持って広く訴え、学校現場・市民と共に闘って行きます。

 私たち根津河原井停職処分取消訴訟弁護団と河原井さん根津さんらの「君が代」解雇をさせない会は、君が代不起立に対するいかなる処分も許さないという立場を貫き、停職3ヶ月・6ヶ月の処分の取消をかちとるべく全力を挙げてたたかい抜く所存です。

以上

 

河原井さん・根津さんらの「君が代」解雇をさせない会サイトから転載