2012年9月14日金曜日

外注化・出向差し止め仮処分裁判の争点

外注化・出向差し止め仮処分裁判の争点
強制出向は完全に違法・無効

代理人・石田亮弁護士に聞く

134751978202413108314_f2551_2_3

 動労千葉・動労水戸・動労連帯高崎の組合員60人が8月28日に東京地裁に申し立てた、JR東日本による検修業務外注化と強制出向の差し止めを求める仮処分裁判のポイントについて、代理人である石田亮弁護士にうかがった。(編集局)

 ――申立書は、JR東日本の検修業務外注化に伴う強制出向は、会社の「権利の乱用にあたり無効」と主張しています。
 石田 JR東日本の就業規則には出向規定がありますが、就業規則に書いてあれば会社は何をやってもいいわけではありません。
 出向は、労務提供の相手が変わるということですから、それ自体が重要な労働条件の不利益変更にあたることが多いです。本人の同意がない場合、出向命令の業務上の必要性やその程度、出向による不利益の度合い、出向を命じる動機・目的などが問題になります。これらに照らして厳格に判断すれば、本件出向命令が違法であり無効であることは明らかです。
 ――出向めぐる裁判は過去にもありますか。
 石田 出向に関して個人が争った裁判はかなりあります。勝っているケースもいくつもあります。例えば、就職する時には子会社はなく、子会社への出向が想定されていなかった場合、その子会社への出向は許されないと判断された事例もあります。労働者にとってあまりにも不利益が大きい場合、会社が命じたからといって必ずそれに従わなければいけないとはなりません。

 職安法違反の労働者供給だ

 石田 何よりも今回の出向命令には業務上の必要性がまったく存在しません。
 一般的に言えば、仕事量が季節によって変動したり、一時的に仕事が増える場合、それをこなすだけの人員を自社で抱え込みたくないというのが外部委託する時の企業側の発想だと思います。
 しかし、JR検修関係の仕事は季節によって変動するわけでもなければ、将来的になくなっていくわけでもない。それなのになぜ、技術も経験もない会社にJRからそっくり人を出してまで外注化するのか。一時的には、下請け会社に作業責任者を配置するためコストも増える。今まで通りJR本体でやらない理由は何なのか。関連会社への技術指導を目的とした一時的な出向ですらなく、いまJRでやっている仕事を、同じ人が、同じ職場でやる。これは「単に肉体的な労働力を提供するもの」にあたり労働者供給事業を禁じた職業安定法44条に違反するものです。
 ――職業安定法とは?
 石田 職業安定法は、戦前に横行した中間搾取(ピンハネ)をなくすために戦後すぐにできた法律です。戦後ずっと、労働者供給事業は認定を受けた労働組合しかできませんでした。
 この大原則に穴を開けたのが中曽根政権下で制定された労働者派遣法です。これ自体がすごい悪法なのですが、派遣法にすら企業へのさまざまなしばりはあります。今回のJR東日本のように「出向命令」という形で事実上の労働者供給事業をやっていいなら、職業安定法や派遣法さえ無視して何をやってもいいという話になってしまいます。

 偽装請負のための出向命令

 ――申立書はさらに、検修外注化は偽装請負であり、本件出向命令には正当な理由が認められないと指摘しています。
 石田 偽装請負は、実際上の使用者(今回で言えばJR東日本)が形式的に「請負」と偽り、労働基準法や労働安全衛生法、派遣法などの適用を逃れて、労働者の使用に伴うさまざまな責任を免れる違法行為です。
 法律用語で「報償責任」という考え方があるんですが、実際に労働者を雇用して利益をあげている者が、それに伴うリスクも負うという考え方です。当然のことですよね。
 しかし、一般的には下請け会社には体力がないところが多い。発注元が実際には指揮・命令しているのに、仮に事故が起これば下請け会社に押しつけたりすることが横行しています。労働力は搾取するけど、労働の過程で起きたことには使用者としての責任はとらない。それはおかしいでしょ、ということです。
 今回のJR東日本のケースでは、契約上は下請け会社が指揮・命令しないといけないのに実際は違っている。独立して業務を遂行する能力もなければ施設も機材もない。教育・訓練のノウハウも施設もない。そもそも、JRのように全体が有機的に動いている職場において、別々の会社の人がいて、いちいち作業責任者を通さなければいけないとなったら仕事になるはずがないんです。
 今回の裁判は、直接的には1986年に出された労働省告示第37号を根拠に争っているわけですが、労働局などでも労働省告示自体が非常に緩い運用をされるようになってきています。“完全に黒じゃなければいい”というように。しかし、あくまで職業安定法44条、つまり労働者供給事業禁止が原則なんです。その例外として派遣法が作られたわけですが、そこから少しでも外れた事例はすべて黒なんです。
 ――申立書は最後に、本件出向が戻る場所のない「片道切符」「実質的な転籍」であり、JR東日本の権利乱用にあたると指摘しています。
 石田 動労千葉から相談を受けた時、なんでこんなめちゃくちゃな外注化をやるのかと思いました。今回の出向命令の最終的な目的は、正規雇用の職員を転籍させることによって、人件費の大幅な削減と、労働者を雇用するにあたって負うべき責任やリスクを子会社に放り投げていくことにあると言わざるをえない。本件の出向命令は、出向を装った実質的な転籍ですから権利乱用にあたることは明らかです。

 雇用破壊許さず職場を守る

 ――労働組合として闘うことの意義は。
 石田 現在、労働事件のほとんどが労働審判で処理されています。労働組合としての集団的争議は本当に少ない。
 労働審判は06年4月にスタートした制度ですが、早期結審が原則で、だいたい3回で終わり。不当解雇と認められても金銭解決が原則ですから金を払って「解決」としてしまう。
 ――仮に当該の方が職場復帰したとしても、その業務そのものは外部委託や子会社化され、職場を守れない場合が多い。
 石田 労働組合としてみんなで闘えば、企業としてもその業務が回らなくなります。そういう形で闘っていかないと、会社の方針自体を根本的に変えさせることはできないと思います。
 仕事上、企業ともかかわりを持つんですが、企業側も派遣や請負の問題は神経質に取り扱っています。JRが今回やろうとしていることが認められれば、それは全社会に波及します。現在の均衡状態すら破るものになり、労働者の権利はさらに破壊されてしまう。
 もっと根本的には、いろんな業者がどんどん中間で抜いていって、最終的に労働者の手に渡る賃金は微々たるもの―東電が原発労働でやっていることですよね、そういうことをこれ以上、社会として許していいのかということをかけた争いだと思います。

『前進』(2551号)(2012/09/10 )より転載

房州鉄道研究会サイトから転載