2020年6月9日火曜日

日刊動労千葉 第8799号

車内消毒 こんなやり方は絶対反対だ!(上)

感染対策を「美談」にしてはならない

「美談」にしてはならない


 千葉運輸区で「コロナウイルス感染防止」をうたった区長名の掲示が張り出された。予備勤務の運転士・車掌の中から希望者を募って車内の消毒をさせるという内容だ。「消毒行路」を2行路作り、それに乗り込んでいって、運行中に乗客のいる中、手すりやつり革、ひじ掛などを消毒する。JR千葉支社は、会社が指示しているのではなくあくまでも「社員の自発的行為」なのだと言っている。

<乗務員希望者による消毒作業>概要

○車内に乗車または、千葉駅折返し列車で消毒作業を実施。
(臨時行路を2つ作成。希望者多数の場合は千葉駅折返し列車を担当)
○予備改札、予備者の希望者で実施。4人(以上)1組で1列車を担当。
○手袋、マスクを着用。アルコール消毒液と布巾で消毒作業を行う。
○期間は、6月10日から当分の間。



 すでにインターネットニュースなどでは運行中の車内消毒が話題になっており、千葉運輸区だけでなく他の職場・職種にも拡大されていくものと考えられる。インターネットでは「こんなふうに車内の消毒をしていてくれたのだ」と感謝の気持ちを伝えるものもある。

 しかし、JRがやっている「コロナ対策」の実態はこんな「美談」とは真逆のものだ。これは、やっている見せかけをつくるためのもので感染症対策ではない。私たちの仕事を宣伝材料にするな。必要なのは見せかけの「美談」を作ることではない。公共交通機関として本当に感染症対策に真剣になることだ。私たちはこんなやり方には絶対反対だ。

「感染症対策」の現実

 私たちは、鉄道の安全を守ることが使命だと考えて誇りをもって働いている。自らの仕事によってコロナ感染症を拡大させるようなことは絶対したくはない。また、毎日感染してしまうのではないかという恐怖の中で働いている。

 だから、車内や駅の消毒をはじめ、感染症対策については、繰り返し声をあげ対策案をつくり要求してきた。だが、JRは今回の「自発的行為」まで、感染が爆発的に拡大する渦中でも、車内の消毒などいっさいやらなかった。

 やる体制も全くなく、それを作る気もなかったと言った方がいいかもしれない。車両清掃は子会社に丸投げになっているからだ。そこで車両や駅の清掃をしているのは、ほとんど非正規職の労働者で、最低の賃金・労働条件で働く仲間たちだ。要員配置もギリギリ、消毒をする余裕などない。

 コロナ感染症が拡大する状況下でも、JRはこの状況に手を打ち、要員を確保したり、消毒を依頼することすらしていない。

 やったことと言えば、通常の清掃作業をする者に次亜塩素酸のスプレーをもたして「やれる範囲で手すりを拭いてくれ」と言っただけ。つり革の消毒に至っては発注すらせず完全放棄している。清掃のついでに消毒をさせるという安易な発想を含め、それは完全に「やっている」という見せかけを作るためだけのものだった。

 ニュースでは当初から車内消毒をしている私鉄の映像などが流れていたから、世の中では「つり革の消毒ぐらいはしているだろう」と思っていたはずだ。しかし、JRは乗客のことも、現場で働く者のことも、何一つ真剣に考えてはいない対応だった。

 今や居酒屋でさえ非接触型の体温計が導入されているというのに、JRは乗客と接する駅員に対しても、運転士・車掌に対しても、そうした健康管理すらやっていない。あげればキリがない。これがJRの現実である。

現場は必死に闘っている!


 現場は、悲鳴をあげながら必死に仕事をしていた。例えばある車両基地では、帰ってきた何十本もの列車の清掃をしながら、夜中の1時・2時にひと晩に700枚もの「窓閉め」をするという仕事が発生した。現場の声で職場内の操配によって窓閉め専門の要員をひねり出したり、消毒担当の要員をひねり出したりしたが、JRは外注会社丸投げで何もしようとはしていない。当初は清掃で働く仲間たちにマスク一つ配らなかったのだ。

 それどころの話ではない。時給900円余りの現場労働者にすべてが押しつけられ、JRから下請会社に天下ってきている年収1千万円からの幹部社員たち、JR本体でも本社や支社の管理部門でデスクワークしている人たちは「テレワーク」だと言って半分自宅待機している。

 こんな状況の中、マスク一つ出させるのも、不急の清掃作業を一旦中止させ、職場内で要員を操配するのも、一つひとつが闘いだった。今もこれが現実である。ひと言で言えば、JRは清掃部門で働く者など「道具」程度にしか見ていないのだ。
CTSのある事業所では、平日は1日1500枚以上、休日でも1000枚以上の窓閉めを行う。「清掃しながら窓を閉める」状態から「専門の人が1人で閉める」体制に変わった。

鉄道版「新しい生活様式」


 5月14日、JR各社をはじめ日本の鉄道会社で構成する鉄道連絡会は、「鉄軌道事業におけるコロナウイルス感染症対策に関するガイドライン」を発表した。鉄道版の「新たな生活様式」だ。その中では、「手すりやつり革の消毒」「トイレは不特定多数が接触する場所は消毒する」こと等が確認されている。

 だが、JRはガイドライン公表後も何もしてこなかった。自分で決めて公表したことなのに会社としては何の手もうたない。やるためにはそのための要員を確保し、作業体制を整えなければならないが、JRは何もしない。それをとり繕うためにもちだされたのが今回の「自発的行為」であった。それは会社としての責任放棄、すべてを現場で働く者の責任に転嫁していくものでしかない。

 しかし、最大の問題はこんなやり方で一体何本の列車が消毒できるのかということだ。ごく一部の列車はできるだろうが、感染対策として意味があるほどの消毒などできないことははっきりしている。もう一度言う。私たちの仕事を宣伝材料にするな! 私たちは世間体をとり繕うためにだけに動員されることなど絶対に嫌だ。感染症対策を「美談」にしてはならない。

現場を軽んじるな!

 コロナ感染症が拡大する中で、医療・介護や、鉄道・運輸、清掃などで働く現場労働者の存在、その仕事の重要性が注目されている。最近では「エッセンシャルワーカー」などとも呼ばれている。エッセンシャルとは「本質的な」とか「必須の」という意味だ。〝本質的な仕事をする労働者〟〝必須の労働者〟――そのとおりだ。

 だが、JRはその必須の労働者をどれほど軽んじてきたのか。どれほど酷い扱いをしてきたのか。鉄道を感染源にしないためにも、それこそが見直されなければならない。

 酷い待遇、労働条件の下で働かさられているのは、車両や駅の清掃部門だけではない。駅業務も今や多くが外注化され、下請会社で超低賃金で働いている。車両検修、保線、電力、信号通信等の技術部門も2001年以降、全面的な外注化が進められ、そこで働く者は下請け会社に突き落とされていった。

コロナ禍の最中「運転士」「車掌」を廃止

 コロナ感染症が拡大する最中、JR東日本は4月1日付で「運転士」「車掌」の職名を廃止した。この4月以降、JR東日本には運転士・車掌は一人もいなくなり、ただの「乗務係」なったのだ。「自動運転もできる時代だから『運転士』『車掌』等の特別な待遇など必要ない。過去の遺物だ」といって「廃止」してしまったのだ。

 その1年前、去年の3月には、「新乗務員勤務制度」と称して、朝・夕のラッシュ時間帯は運転士ではない者がハンドルを握る勤務制度が導入された。運転士の資格をもっていて管理部門などてデスクワークをしている者が、早朝出勤して3時間ほどハンドルを握り、それからJR千葉支社などに出勤する。そんな勤務制度が導入されたのだ。それは運転士の仕事を徹底的に軽んじる姿勢の表れでもあった。しかもこんなことをしたら過労死と事故を招くことは明らかだ。

 こんなことをしておきながら、運転士・車掌を消毒に動員し、それを「美談」のように仕立てる。こんなやり方は絶対に許せない。
(続く)

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